「総合商社は日本の特有の業態」はどれほど本当か?

  

「総合商社」

 

三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅等の会社が代表的だが、「トレーディング」という、よく一般には分かりにくい事業を中心としている企業群だ。

 

取り扱う商品は多岐にわたる。鉄鉱石・銅等の金属資源、石炭・ガス等のエネルギー資源、大豆やトウモロコシ等の食糧資源といった色々な資源を扱う以外に、衣料や自動車のような機械も扱ってたりする。

 

特に日本において、生活のさまざまなところで総合商社の影響力は密かに大きい。日本に輸入されている様々な資源の取引の相当大きな部分は商社が絡んでいると思われるし、国内の食品や衣料等の流通でも多くのところに総合商社が何かしら関係している。身近なところでいえばコンビニのローソンは三菱商事の子会社なのは有名だ。

 

2000年代末ごろには資源価格の高騰もあってとても高い利益を稼ぎ出し、注目度を高めた。給料も高いこともあって、特に最近は学生の人気就職先ランキングの上位の常連である。

 

これら総合商社は「日本特有の業態」とされる。商社以外の人も、商社の人もそういっていたりする。

 

 

 

「総合商社は日本特有の業態」それは本当なのだろうか?

 

 

ニッチな業態は別として、東証一部に上場するような大企業で日本だけにしかない業態って他に思いつくだろうか?そういうものは存在しうるのだろうか?どうも不思議に思えてならない。

 

 

この点、私の仮説は「総合商社は別に日本特有の業態でもなんでもない」というものだ。

 

まず、海外に競合となる企業がいるからだ。

例えば、総合商社の事業の中核となる「資源」分野で例を挙げるならば、

 

エネルギー資源や金属資源では、Vitol, Glencore,Trafigura等の企業が日本の総合商社の競合となる。

食糧資源では、「ABCD」と言われる ADM, Bunge, Cargill Louis, Drefyfus 等が競合になる。

 

これらの競合は多くの場合非上場企業であり詳細な情報は不明であり、また一般的な認知もされていないが、これらは夫々の分野において、総合商社より大きな事業規模であるように見える。

食糧資源におけるCargillの事業規模は、日本の総合商社の中で食糧に強い丸紅を上回るとみられるし、金属・エネルギー分野におけるVitol・Glencoreの規模は三井物産を上回るとみられる。

 

 

このように世界に大手競合がいる中で、「日本独自の業態」と本当に言えるのかと思えるのである。

 

 

尚、最近の総合商社は「トレーディング」だけでなく「投資」も行っているから独特という反論があると思う。しかし、「投資」というのは「トレーディング」の一部である。資源を有利な条件で取引するために、総合商社と同じように、海外の競合も色々なところに投資をしている。鉱山に投資をして資源会社のようにふるまってみたり、貯蔵庫や物流拠点に投資してみたり、更には下流に投資をしてみたりしている。

 

 

あえて日本の総合商社と、海外の競合の違う点を挙げるとすれば、2点あると思う。

それは「客の狭さ」と「事業の広さ」だ。

 

「客の狭さ」に関していえば、日本の商社の客は基本的に日本の会社だ(最近は中国等のアジアも大きくなっていると思うが)。一方、海外競合はグローバルだ。

 

「事業の広さ」に関しては、海外の競合が対象商品を比較的に絞っているのに対し、総合商社は商品を幅広く持っている。エネルギーも金属も食糧もやっている、更には機械等も扱っている。

 

 おそらくこの2つの違いは相互に関係しているように思える。日本の総合商社は(販売先としての)海外顧客の開拓が苦手であり、日本の顧客が中心となっていた。そうすると一つの商品だけを扱っていると規模も小さく、リスクヘッジがしづらいので、自ずとと多角化せざるを得なかった。そういう因果関係ではないだろうか。

 

 

 

もし「客の狭さ」と「事業の広さ」が総合商社と海外競合の違いだとした場合、その違いで「独自の業態」とまで言えるのか?

 

言えない気がする。

 

 

 

例えば自動車業界に当てはめてみる。

トヨタ自動車がグローバルに販売しているのに対し、多くの中国自動車メーカー(吉利・長城汽車等)はほとんどを中国国内のみで販売している。ここで中国自動車メーカーのことを、「中国独自の業態」とは呼ばない。自動車メーカーは自動車メーカーである。

また、トヨタ自動車は自動車だけでなく、住宅事業(トヨタホーム)もやっていたりする。だからといってトヨタ自動車は自動車+住宅を手掛ける「独自の業態」とは呼ばない。自動車メーカーである。

 

 

やや事例が極端かもしれないが、同じように総合商社も別に「日本独自の業態」ではないように思えて仕方ないのである。

 

 

すあま

 

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